バナッハ=アラオグルの定理

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バナッハ=アラオグルの定理(バナッハ=アラオグルのていり、: Banach–Alaoglu theorem)あるいはアラオグルの定理として知られる定理は、ノルム空間V共役空間V*単位球*弱位相関してコンパクトになるという定理である[1]

この定理の背景を簡単に述べると、関数解析学では無限次元のノルム空間Vを多用し、Vやその共役空間V*の元は何らかの集合上の実数値ないし複素数値の関数のなすベクトル空間である事が多い。しかしVが無限次元の場合、VV*の閉単位球はノルム位相に関してはコンパクトにならない事が知られており、これが原因で有限次元とは異なり、VV*上の有界な点列が(ノルム位相に関して)収束部分列を持つことが保証されない。これは例えば微分方程式をノルムに関して近似する解fεを求めた上でε0とした場合、その極限(すなわち微分方程式の解そのもの)が存在する事が保証されない事を意味する。微分方程式の振る舞いの記述を主たる適用先とする関数解析学において、これは致命的である。

しかしバナッハ=アラオグルの定理は閉単位球が*弱位相に関してコンパクトである事を保証しているので、弱位相の意味での近似解fεを求めれば、 ( f ε ) ε > 0 {\displaystyle (f_{\varepsilon })_{\varepsilon >0}} が収束部分列を持つ事が保証され、その収束部分列の極限が微分方程式の解になっている事を証明する道が開かれる。

この定理は、オブザーバブルの代数の状態の集合を表現するときに物理学的に応用される。すなわち、任意の状態はいわゆる純粋状態の凸線型結合として表現される[要出典]

この定理は可分な場合に対して1932年にステファン・バナフによって示され、一般の場合は1940年にレオニダス・アラオグル(英語版)により示された[要出典]

定理

以下、ベクトル空間の係数体K R {\displaystyle \mathbb {R} } もしくは C {\displaystyle \mathbb {C} } であるとする。

準備

本節ではバナッハ=アラオグルの定理の記述に必要な概念を定義する。

定義 (ノルム空間共役空間) ―  K上ノルム空間 ( V , V ) {\displaystyle (V,\|\cdot \|_{V})} 共役空間: dual space双対空間とも訳される)V*V上のK有界線形作用素全体

V = { α   : V K α {\displaystyle V^{*}=\{\alpha ~\colon V\to K\mid \alpha } K上の有界線形作用素 } {\displaystyle \}}

に関数としての定数倍および和に関してベクトル空間とみなしたものである。V*には作用素ノルム

α V = sup x V { 0 } | α ( x ) | x V {\displaystyle \|\alpha \|_{V^{*}}=\sup _{x\in V\setminus \{0\}}{|\alpha (x)| \over \|x\|_{V}}}

によりノルムが入る。

V*閉単位球B*は上述の作用素ノルム V {\displaystyle \|\cdot \|_{V^{*}}} に対して定義される:

B := { α V α V 1 } {\displaystyle B^{*}:=\{\alpha \in V^{*}\mid \|\alpha \|_{V^{*}}\leq 1\}}

なお、V*上の作用素ノルム V {\displaystyle \|\cdot \|_{V^{*}}} V*ノルム位相(=ノルムが定める距離から定まる位相)を定めるが、バナッハ=アラオグルの定理はノルム位相ではなく以下で述べる*弱位相に関する定理である:

定義 (*弱位相) ―  V*上の*弱位相とはxVに対し、

μ x : α V α ( x ) K {\displaystyle \mu _{x}\colon \alpha \in V^{*}\mapsto \alpha (x)\in K}

とするとき、μxが全て連続になるV*上の最弱の位相の事である。

最後に位相空間のコンパクト性は以下のように定義される:

定義・定理 (位相空間コンパクト性) ― 位相空間Xに関して以下の2条件は同値であり、これら2条件の少なくとも一方(したがって両方)を満たすときXコンパクトであるという[2]

  • X上の任意の有向点族 ( x λ ) λ Λ {\displaystyle (x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} に対し、 ( x λ ) λ Λ {\displaystyle (x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} のある部分有向点族 ( x λ γ ) γ Γ {\displaystyle (x_{\lambda _{\gamma }})_{\gamma \in \Gamma }} xXが存在し、 ( x λ γ ) γ Γ {\displaystyle (x_{\lambda _{\gamma }})_{\gamma \in \Gamma }} xXに収束する
  • Xの任意の開被覆 S {\displaystyle {\mathcal {S}}} に対し、 S {\displaystyle {\mathcal {S}}} のある有限部分集合 T {\displaystyle {\mathcal {T}}} が存在し、 T {\displaystyle {\mathcal {T}}} Xを被覆する。ここでXの開被覆 S {\displaystyle {\mathcal {S}}} とは、Xの開集合の族で O S O = X {\displaystyle \cup _{O\in {\mathcal {S}}}O=X} を満たすものを指す。

ノルム位相に対してはリースの補題から直接的に次の事実が従う:

命題 ―  R {\displaystyle \mathbb {R} } もしくは C {\displaystyle \mathbb {C} } 上のノルム空間Vの閉単位球がノルム位相に関してコンパクトである必要十分条件はVが有限次元である事である。

したがって無限次元の場合、V*の閉単位球はノルム位相に関してコンパクトではない。

定理の記述

これに対し、V*の閉単位球は*弱位相に関してはコンパクトになるというのがバナッハ・アラオグルの定理の主張である:

定理 (バナッハ=アラオグルの定理) ― K R {\displaystyle \mathbb {R} } もしくは C {\displaystyle \mathbb {C} } とする。このときK上のノルム空間 ( V , V ) {\displaystyle (V,\|\cdot \|_{V})} 共役空間 ( V , V ) {\displaystyle (V^{*},\|\cdot \|_{V^{*}})} に*弱位相を入れると、V*の閉単位球は

B = { α V α V 1 } {\displaystyle B^{*}=\{\alpha \in V^{*}\mid \|\alpha \|_{V^{*}}\leq 1\}}

はコンパクトである。

この定理はチコノフの定理に基づいて非構成的に示せる[3]。なおノルム空間Vが(ノルム位相に関して)可分な場合には、可分なノルム空間の共役空間の閉単位球が*弱位相に関して距離化可能である事[4]を利用してより直接的にに証明可能である[4]

一般の場合の証明

xVに対しKxKのコピーとするとき、V*上の*弱位相は

α V α ( x ) K x {\displaystyle \alpha \in V^{*}\mapsto \alpha (x)\in K_{x}}

を全て連続になるV*上の最弱の位相であるので、

K V := x V K x {\displaystyle K^{V}:=\prod _{x\in V}K_{x}}

と定義すると、直積位相の定義より、*弱位相は写像

μ   :   V K V ,     α ( α ( x ) ) x V {\displaystyle \mu ~\colon ~V^{*}\to K^{V},~~\alpha \mapsto (\alpha (x))_{x\in V}}

を連続にする最弱の位相と一致する。すなわちμは中への同相写像である。したがってV*の閉単位球B*のコンパクト性を示すには、μ(B*)のコンパクト性を示せば良い。


これを示すため、 K V {\displaystyle K^{V}} VからKへの(線形とは限らない)写像全体の集合F(V, K)と自然に同一視できるという事実を使う:

K V F ( V , K ) {\displaystyle K^{V}\approx F(V,K)}

両者が同一視できるのは以下の理由による。 K V {\displaystyle K^{V}} の任意の元 ν = ( ν x ) x V {\displaystyle \nu =(\nu _{x})_{x\in V}} から(線形とは限らない)写像 x V ν x K {\displaystyle x\in V\mapsto \nu _{x}\in K} を定める事ができ、逆にVからKへの(線形とは限らない)に ζ   :   V K {\displaystyle \zeta ~:~V\to K} 対して ( ζ ( x ) ) x V K V {\displaystyle (\zeta (x))_{x\in V}\in K^{V}} が対応する。

上記の同一視を行った場合、 K V {\displaystyle K^{V}} の位相(直積位相)はF(V, K)の各点収束位相と一致する。


μ(B*)のコンパクト性を示す為、 D x K x {\displaystyle D_{x}\subset K_{x}}

D x = { ξ K x | ξ | x V } {\displaystyle D_{x}=\{\xi \in K_{x}\mid |\xi |\leq \|x\|_{V}\}}

により定義し、

D V := x V D x {\displaystyle D^{V}:=\prod _{x\in V}D_{x}}

すると、定義より

μ ( B ) D V K V F ( V , K ) {\displaystyle \mu (B^{*})\subset D^{V}\subset K^{V}\approx F(V,K)}

である。DxKx= R {\displaystyle \mathbb {R} } or C {\displaystyle \mathbb {C} } の閉単位球なのでコンパクトである。よってチコノフの定理より、 D V = x V D x {\displaystyle D^{V}=\prod _{x\in V}D_{x}} F ( V , K ) {\displaystyle F(V,K)} のコンパクト部分集合である。 F ( V , K ) {\displaystyle F(V,K)} は明らかにハウスドルフなので、コンパクトな集合 D V {\displaystyle D^{V}} の部分集合μ(B*)がコンパクトである必要十分条件はμ(B*)が閉集合な事である。


以上の事からB*のコンパクト性を示すには、μ(B*) D V F ( V , K ) {\displaystyle D^{V}\subset F(V,K)} で閉集合な事を示せば良い。これを示すためにμ(B*) D V {\displaystyle D^{V}} の関係を調べる。 D V {\displaystyle D^{V}} を(線形とは限らない)写像の集合 F ( V , K ) {\displaystyle F(V,K)} の部分集合とみなしたとき、

ν D V = x V D x x V   :   | ν ( x ) | x V sup x V { 0 } | ν ( x ) | x V 1  and  ν ( 0 ) = 0 {\displaystyle \nu \in D^{V}=\prod _{x\in V}D_{x}\iff \forall x\in V~:~|\nu (x)|\leq \|x\|_{V}\iff \sup _{x\in V\setminus \{0\}}{|\nu (x)| \over \|x\|_{V}}\leq 1{\text{ and }}\nu (0)=0}

なので、作用素ノルム V {\displaystyle \|\cdot \|_{V^{*}}} の定義より、

μ ( B ) = { ν D V | ν {\displaystyle \mu (B^{*})={\bigg \{}\nu \in D^{V}{\bigg |}\nu } は線形 } {\displaystyle {\bigg \}}}

が従う。よってμ(B*)が閉集合である事を示すには収束する任意の有向点族 ( α λ ) λ Λ B {\displaystyle (\alpha _{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }\subset B^{*}} に対し、その極限ααB*を満たす事を示せばよい。そこでx, yVa, bKを任意に取ると、

α ( a x + b y ) = ( lim λ α λ ) ( a x + b y ) = (1) μ a x + b y ( lim λ α λ ) {\displaystyle \alpha _{\infty }(ax+by)=(\lim _{\lambda \to \infty }\alpha _{\lambda })(ax+by){\underset {\text{(1)}}{=}}\mu _{ax+by}(\lim _{\lambda \to \infty }\alpha _{\lambda })} = (2) lim λ μ a x + b y ( α λ ) = (3) a lim λ α λ ( x ) + b lim λ α λ ( y ) {\displaystyle {\underset {\text{(2)}}{=}}\lim _{\lambda \to \infty }\mu _{ax+by}(\alpha _{\lambda }){\underset {\text{(3)}}{=}}a\lim _{\lambda \to \infty }\alpha _{\lambda }(x)+b\lim _{\lambda \to \infty }\alpha _{\lambda }(y)} = a α ( x ) + b α ( y ) {\displaystyle =a\alpha _{\infty }(x)+b\alpha _{\infty }(y)}

が成立する。ここで

  • (1)は μ x {\displaystyle \mu _{x}} の定義から従う。
  • (2)は*弱位相が ( μ x ) x V {\displaystyle (\mu _{x})_{x\in V}} を全て連続にする最弱の位相である事から従う。
  • (3)は μ x {\displaystyle \mu _{x}} の定義、およびKにおける和や定数倍の連続性から従う。

よってαB*が示され、定理が証明された。

可分な場合の別証明

可分なノルム空間Vの共役空間V*の閉単位球B*は*弱位相に関して距離化可能な事が知られており[4]、距離化可能空間ではB*のコンパクト性は点列コンパクト性と同値であるので、任意に点列 ( α n ) n N B {\displaystyle (\alpha _{n})_{n\in \mathbb {N} }\subset B^{*}} を選んで固定し、 ( α n ) n N {\displaystyle (\alpha _{n})_{n\in \mathbb {N} }} B*内に収束する部分列を持つ事を示せば良い。


Vは可分なので、Vの稠密部分集合 ( x i ) i N V {\displaystyle (x_{i})_{i\in \mathbb {N} }\subset V} が存在する。今、

α n B α n V 1 | α n ( x i ) | | x i | {\displaystyle \alpha _{n}\in B^{*}\Rightarrow \|\alpha _{n}\|_{V^{*}}\leq 1\Rightarrow |\alpha _{n}(x_{i})|\leq |x_{i}|}

が成立するので、各iに対し、数列 ( α n ( x i ) ) n N K {\displaystyle (\alpha _{n}(x_{i}))_{n\in \mathbb {N} }\subset K} K上有界であり、したがって収束部分列を持つ。


よって各iに対して順に ( α n ) n N {\displaystyle (\alpha _{n})_{n\in \mathbb {N} }} の部分列を取っていくことで任意のiに対して ( α n m ( x i ) ) m N {\displaystyle (\alpha _{n_{m}}(x_{i}))_{m\in \mathbb {N} }} m→∞に関して収束するような ( α n m ) m N {\displaystyle (\alpha _{n_{m}})_{m\in \mathbb {N} }} を選ぶ事ができる。


次に我々は、 ( x i ) i N V {\displaystyle (x_{i})_{i\in \mathbb {N} }\subset V} Vで稠密な事を利用して、任意のxVに対し ( α n m ( x ) ) m N {\displaystyle (\alpha _{n_{m}}(x))_{m\in \mathbb {N} }} コーシー列である事を示す。V*は(Vが完備であるかどうかによらず)必ず完備なので、これにより ( α n m ( x ) ) m N {\displaystyle (\alpha _{n_{m}}(x))_{m\in \mathbb {N} }} の収束性が従う。


そこでε>0xVを任意に固定すると、 ( x i ) i N {\displaystyle (x_{i})_{i\in \mathbb {N} }} Vの稠密性より、

x x i ε {\displaystyle \|x-x_{i}\|\leq \varepsilon }

を満たすxiが存在する。よって任意のm N {\displaystyle \ell \in \mathbb {N} } に対し、

| α n m ( x ) α n ( x ) | | α n m ( x ) α n m ( x i ) | + | α n m ( x i ) α n ( x i ) | + | α n ( x i ) α n ( x ) | α n m V x i x V + | α n m ( x i ) α n ( x i ) | + α n V x i x V | α n m ( x i ) α n ( x i ) | + 2 ε {\displaystyle {\begin{aligned}&|\alpha _{n_{m}}(x)-\alpha _{n_{\ell }}(x)|\\&\leq |\alpha _{n_{m}}(x)-\alpha _{n_{m}}(x_{i})|+|\alpha _{n_{m}}(x_{i})-\alpha _{n_{\ell }}(x_{i})|+|\alpha _{n_{\ell }}(x_{i})-\alpha _{n_{\ell }}(x)|\\&\leq \|\alpha _{n_{m}}\|_{V^{*}}\|x_{i}-x\|_{V}+|\alpha _{n_{m}}(x_{i})-\alpha _{n_{\ell }}(x_{i})|+\|\alpha _{n_{\ell }}\|_{V^{*}}\|x_{i}-x\|_{V}\\&\leq |\alpha _{n_{m}}(x_{i})-\alpha _{n_{\ell }}(x_{i})|+2\varepsilon \end{aligned}}}

が成立する。最後の不等式は α n m , α n B {\displaystyle \alpha _{n_{m}},\alpha _{n_{\ell }}\in B^{*}} x x i V ε {\displaystyle \|x-x_{i}\|_{V}\leq \varepsilon } を用いた。


各固定されたiに対し ( α n m ( x i ) ) m N {\displaystyle (\alpha _{n_{m}}(x_{i}))_{m\in \mathbb {N} }} は収束列であり、したがってコーシー列であるので、上記の事から、

0 lim ¯ m , | α n m ( x ) α n ( x ) | 2 ε {\displaystyle 0\leq {\overline {\lim }}_{m,\ell \to \infty }|\alpha _{n_{m}}(x)-\alpha _{n_{\ell }}(x)|\leq 2\varepsilon }

が成立する。よってε>0の任意性より、

lim m , | α n m ( x ) α n ( x ) | = 0 {\displaystyle \lim _{m,\ell \to \infty }|\alpha _{n_{m}}(x)-\alpha _{n_{\ell }}(x)|=0}

が任意のxVに対して成立する。よって任意のxVに対し ( α n m ( x ) ) m N {\displaystyle (\alpha _{n_{m}}(x))_{m\in \mathbb {N} }} はコーシー列であり、したがってV*の完備性より収束列である。


最後に、

α   :   V K {\displaystyle \alpha ~:~V\to K}

を、xV ( α n m ( x ) ) m N {\displaystyle (\alpha _{n_{m}}(x))_{m\in \mathbb {N} }} の収束先を対応させる写像とする。この写像αV*の元であり、しかも ( α n m ) m N {\displaystyle (\alpha _{n_{m}})_{m\in \mathbb {N} }} の収束先である事を示せば、定理が証明される。

αV*の元である事を示すため、V*の条件を順に示す。まず α n m {\displaystyle \alpha _{n_{m}}} の線形性より α {\displaystyle \alpha } の線形性が従う。しかも任意のε>0と任意のxVに対し、ある m 0 N {\displaystyle m_{0}\in \mathbb {N} } 以上のmに対して

| α ( x ) | | α ( x ) α n m ( x ) | + | α n m ( x ) | ε + | x | {\displaystyle |\alpha (x)|\leq |\alpha (x)-\alpha _{n_{m}}(x)|+|\alpha _{n_{m}}(x)|\leq \varepsilon +|x|}

α n m B {\displaystyle \alpha _{n_{m}}\in B^{*}} から従うので、ε>0の任意性から | α ( x ) | | x | {\displaystyle |\alpha (x)|\leq |x|} 、すなわち α B V {\displaystyle \alpha \in B^{*}\subset V^{*}} が従う。

αの定義より、 lim m | α n m ( x ) α ( x ) | = 0 {\displaystyle \lim _{m\to \infty }|\alpha _{n_{m}}(x)-\alpha (x)|=0} が任意のxVに対して従い、これは ( α n m ) m N {\displaystyle (\alpha _{n_{m}})_{m\in \mathbb {N} }} αに*弱収束する事を意味する。


バナッハ=アラオグルの定理は半径1の閉球に対するものだが、任意の半径の閉球もコンパクトになる事が容易に示せる。また*弱位相はハウスドルフ性を満たす事が知られており、コンパクトな空間の閉部分集合はコンパクトなので、以下の系が成立する:

 ― V*に*弱位相を入れた空間の有界閉集合はコンパクト

なお、V回帰的(すなわちV**=Vが成立する空間)であればV上の*弱位相と弱位相は同一になるので、下記の系が従う:

 ― Vが回帰的なノルム空間であれば、Vに弱位相を入れた空間の有界閉集合はコンパクト

1 < p < ∞に対しLp空間やℓp空間は回帰的なので、上記の定理が適用できる。しかし回帰的でない場合には上述の定理に反例があり、例えば0に収束する複素数列全体にℓノルムを入れた空間c0の閉単位球は弱位相に関してコンパクトではない[5]

注意しなければならないのは、*弱位相における有界閉集合には内点が無く、有界閉集合上の点は必ず境界点になる事である。これはすなわち、たとえ閉単位球がコンパクトであっても*弱位相をいれたV*局所コンパクトにはなっていない事を意味する。

なお、X が実数直線上の有限ラドン測度の空間(したがってリースの表現定理より、 X = C 0 ( R ) {\displaystyle X=C_{0}({\mathbb {R} })} は無限大で消失する連続函数の空間となる)の場合、可分なノルム空間に対するバナッハ=アラオグルの定理はヘリーの選択定理と同値となる[要出典]

一般化:ブルバキ=アラオグルの定理

ブルバキ=アラオグルの定理(Bourbaki-Alaoglu theorem)は、ニコラ・ブルバキによる局所凸位相ベクトル空間上の双対位相へのバナッハ=アラオグルの定理の一般化である[6][7]

定理 (ブルバキ=アラオグルの定理) ― 連続双対 X ' を持つ分離された局所凸空間 X が与えられたとき、X 内の任意の近傍 U U0 は、X ' 上の弱位相 σ(X ',X) においてコンパクトである。

ノルム線型空間の場合、近傍の極はその双対空間において閉かつノルム有界である。例えば、単位球の極はその双対において閉単位球である。したがって、ノルム位相空間(したがってバナッハ空間)に対して、ブルバキ=アラオグルの定理はバナッハ=アラオグルの定理と同値である。

証明

X 内の任意の x に対し、

D x = { z C : | z | x } , {\displaystyle D_{x}=\{z\in \mathbb {C} :\left|z\right|\leq \|x\|\},}

D = Π x X D x {\displaystyle D=\Pi _{x\in X}D_{x}}

を定める。各 Dx は複素平面内のコンパクト部分集合であるため、チコノフの定理より積位相において D もまたコンパクトである。

X* 内の閉単位球 B1(X*) は、自然な方法で D の部分集合と見なすことが出来る。すなわち

f B 1 ( X ) ( f ( x ) ) x X D {\displaystyle f\in B_{1}\left(X^{*}\right)\mapsto (f(x))_{x\in X}\in D}

である。この写像は単射かつ連続で、B1(X*) は弱 * 位相を持ち、D は積位相である。この値域上で定義される逆写像もまた連続である。

この写像の値域が閉であることが示されれば、定理は証明される。しかしそれは明らかである。D 内の次のネット

( f α ( x ) ) x X ( λ x ) x X {\displaystyle (f_{\alpha }(x))_{x\in X}\rightarrow (\lambda _{x})_{x\in X}}

を考えると、次で定義される汎函数

g ( x ) = λ x {\displaystyle g(x)=\lambda _{x}\,}

B1(X*) に属する。

帰結

  • ノルムについて閉じている凸集合は弱閉である(ハーン=バナッハの定理)ため、ヒルベルト空間あるいは回帰的バナッハ空間における有界凸集合のノルム閉包は、弱コンパクトである[要出典]
  • B(H) における閉かつ有界集合は、弱作用素位相に関してプレコンパクトである(弱作用素位相は、トレースクラス作用素の集合 B(H) の前双対に関する弱 * 位相である超弱位相(英語版)よりも弱い)。したがって、作用素の有界列は弱集積点を持つ。したがって B(H) は、弱作用素あるいは超弱位相が備えられたとき、ハイネ=ボレルの性質を持つ[要出典]

たない。

関連項目

  • ビショップ=フェルプスの定理(英語版)
  • ゴールドスタインの定理(英語版)
  • ジェームスの定理(英語版)
  • マズローの補題(英語版)
  • クレイン=ミルマンの定理

注釈

  1. ^ Rudin 1991, section 3.15.
  2. ^ #Kelly pp.135-136.
  3. ^ #Schlumprecht p.7.
  4. ^ a b c #Semmes pp.15, 20-21
  5. ^ #Heil p.361.
  6. ^ Köthe 1969, Theorem (4) in §20.9.
  7. ^ Meise & Vogt 1997, Theorem 23.5.

参考文献

  • Rudin, W. (1991). Functional Analysis (2nd ed.). Boston, MA: McGraw-Hill. ISBN 0-07-054236-8  See section 3.15, p. 68.
  • Meise, Reinhold; Vogt, Dietmar (1997). Introduction to Functional Analysis. Oxford: Clarendon Press. ISBN 0-19-851485-9  See Theorem 23.5, p. 264.
  • Köthe, Gottfried (1969). Topological Vector Spaces I. New York: Springer-Verlag  See §20.9.
  • Stephen Semmes. “6: Weak and weak∗ convergence” (pdf). An introduction to some aspects of function alanalysis. Rice University. 2021年3月22日閲覧。
  • Christopher E. Heil. “Alaoglu's Theorem”. LECTURE NOTES, MATH 6338 (Real Analysis II), Summer 2008. Georgia Institute of Technology. 2021年3月22日閲覧。
  • Thomas Schlumprecht. “CHAPTER 7. ELEMENTS OF FUNCTIONAL ANALYSIS” (pdf). Real Variables II, Math 608. Texas A&M University. 2021年3月23日閲覧。
  • John L. Kelly (1975/6/27). General Topology. Graduate Texts in Mathematics (27). Springer-Verlag. ISBN 978-0387901251 
    • Kindle版:ASIN : B06XGRCCJ3
    • 翻訳版:ジョン・L.ケリー 著、児玉之宏 訳『位相空間論』吉岡書店〈数学叢書〉、1979年7月1日。ISBN 978-4842701318。 

関連図書

  • John B. Conway (1994). A course in functional analysis (2nd ed.). Berlin: Springer-Verlag. ISBN 0-387-97245-5  See Chapter 5, section 3.
  • Peter B. Lax (2002). Functional Analysis. Wiley-Interscience. p. 120-121. ISBN 0-471-55604-1